第十四話:矛盾と禁忌

鷲塚がゲームソフトを過去の時代に置いてきた、と聞いたジョニー・吉田は驚いた。何故ならば、あのソフトは現代人が、タイムマシンを使って過去に行き、そこで、ちょっとだけ戦国時代を体験してしまおう、というものである。過去に本当に存在していた者達が自らの運命を書き換えるために作られたものではないのだ。

「しかし、リアルプレイをすれば、結局歴史は上書きされる。同じ事では?[br num="1"]「あんた自身はリアルプレイをしたことは?」

「いや、ない」

「そうだろうな。まるで、誰も彼もがあのプレイをしたみたいに言われちゃいるが、実際にはタイムマシンに乗れたのは金のある連中だけだ。今は隣の銀河系への宇宙旅行を楽しんでいるような、そういう金持ちだ」

現状、鷲塚や吉田がタイムマシンで密売できるのは、タイムマシン関連企業の社員にして、有資格者であるからに他ならない。今のように国の法律が厳格でなかった頃には、彼らのような有資格者は個人の私的依頼にもかり出されたらしいが、依頼主は金持ちと決まっていた。

町工場の社長に過ぎなかった鷲塚の父親にはそんな金はなかった。誕生日に買って貰ったリアル版ではないゲーム機をプレイしながら、子供心に、本当に過去の時代に行けるようなお金持ちを羨ましく思ったものだ。

何しろ、歴史は捏造できる、と、毎日のようにゲーム会社とタイムマシン関連企業が宣伝していたからだ。

「あんたもゲームをやったなら分るだろうが、大体、天下統一までの時間はそこそこの大名家で始めても10年以上かかる。ベッドの上で寝転がってやっている分には10年だろうが20年だろうが、2日もあれば十分だ。ゲームの中の1年なんてあっと言う間だからな。だが、実際にリアルでプレイしたとして、あんたはその10年20年をそんな訳の分らない過去の時代で過ごせるか? せいぜい1週間、長くても1月くらいしかおれないはずだ」

確かにその通りだ。電気も水道もなく、通信網すら発達していない時代に、何もかも揃った未来の人間がどれほど適応できるだろうか? メンテナンスの僅かな時間を拝借して、密売用の品を取りに行くくらいなら我慢できても、鷲塚には一晩泊まることすら無理な気がした。

「では、リアルで天下統一、というあのキャッチフレーズは? 全てデタラメだと?」

「デタラメではないが、限りなく不可能に近い。実際にやった俺がそう言うんだ」

そう言えば、吉田は大富豪の息子だ……。

「どことは言わないが、四国のちっぽけな大名家で始めた。俺の手でこの聞いたこともない家で天下統一をっと思った。捏造もしまくったから、恐らく、俺がこっちへ戻ったあと、本当に統一したかもな。だが、それを見届ける余裕はなかった。あの弱さだと、どんなに捏造した所で、最低20年はかかるだろう。まさか、一生のうち20年をゲームのために注ぐアホがどんだけいると?」

鷲塚は言葉に詰まった。少なくとも金さえあれば、誰でもタイムトラベルして、このゲームで天下統一をやり遂げたと思っていたが。想像とはまるで違うではないか……。

「では、君の言葉通りなら、リアルでこのゲームをクリアした者など実際にはいなかった、ということか?」

「そこまでは知らん。リタイア爺なら、定年後の全てを注ぎ込んだかも知れんし、もはやこっちでの一生を捨て去り、過去の時代に根を生やしたやつだっていたかも知れない。だが、そんなことは運営には関係ないからな。とにかく数売れて、一瞬でもプレイしてくれれば、ゲーム会社もタイムマシン製造元も大儲け出来る。最後までプレイするかどうかなんて、誰も気にしちゃいねぇんだよ」

「……」