第十一話:取引

我々がセールスマン・山田だと思っていた、実はエンジニア・鷲塚昭彦は、勤務区域内にある立ち食い飯屋で、同僚のジョニー・吉田と並んで昼食を食べていた。懐古主義が流行中のこの時代、古くさいこのような立ち食い飯屋が雨後の竹の子のように乱立していた。

しかし、これらの立ち食い飯屋は、平成時代の立ち食い蕎麦屋などのイメージとはほど遠い。何故なら、飯屋に主はおらず、どこもかしこもロボットだらけだったからだ。調理を行うのもロボットなら、注文を取りに来るのもロボットだった。

鷲塚は無言で、ロボットが運んできた天丼を食べていた。

吉田のほうはざる蕎麦をすすっている。吉田の隣には黒人の青年がおり、ハンバーガーを頬張っていたが、その腕はしっかりと吉田の腰に回されていた。何やらやたらと馴れ馴れしく吉田に張り付いている。

「それで、取引とは?」

天丼を食べ終わった鷲塚は、ハンカチで丁寧に口を拭ってから切り出した。

吉田が隣の黒人の青年に目配せすると、青年は吉田とハグし合い、その後、鷲塚に向かって投げキッスをして、へらへら笑いながら出て行った。

「ジェームス、まともに働けよ」

吉田がその後ろ姿に声をかけると、青年は振り向きもせず、ただ手を振って答えた。

「あいつ、またカジノへ行くつもりだ」

吉田は溜息をついた。

「さて、取引の話に入るか」

そう言うと、吉田はカウンターの上にプラスチックケースに入ったマイクロチップを置いた。

「あんたにしちゃ、信じがたいミスだったな。走行距離メーターをゼロにし忘れるとは」

「し忘れたわけではない。データを消そうとしていたときに、急に声をかけられたからだ

「なるほどね。どうせ、あれらの考古学者やら、歴史家やらはマシンのことはまるで分らない。例えデータを見たとしても、あんたの密航記録など見抜けぬからな」

「そう言う事だ。まさか、メンテナンスの数日後に操縦命令が来るとは予想していなかった」

「そう、しかも、あんたが密売品取引のために休暇を取ったその日に呼び出しがかかるとはな。しかし、代わりに行ったのが俺だったのは幸運だった」

「恐喝まがいの行為を行おうという人物の台詞とは思えんな」

吉田はそれを聞いて笑い出した。

「恐喝? ふん。俺以外の誰かなら、あんたに声をかける前に、警察へ行っただろうな」

「君が警察署に行けなかったのは、文字通り君自身も密売に手を染めているからだ。互いに秘密を握り合って、どう取引をすると? 部長補佐の座を独占したいとでも?」

「さすがあんただ。そこまで知ってるなら話が早い。俺は部長の座なんてどうでもいい。だいたい、こんな会社とはとっととおさらばして、起業する予定だ」

「起業?」

「そうだ。あんたもそのつもりで資金を集め始めたのでは?」

「まあ、そんなところだ」

「データから見るに、あんたが辿り着いたのは戦国時代の初期といったところか。残念だがあまり儲かりそうにないな」

「君は京葉大学の歴史学部担当だったな?」

「ああ。言うまでもなく、最高のクライアントだ。毎回研究のため、合法的にお宝の宝庫に行けるのだからな。あんたは知らないだろうが、あそこの大学のお偉いさんはお宝をつかみ取り状態だ。口止め料代わりに俺も一緒につかみ取りができる」

「つかみ取り?」

「持ち帰り放題だ」

何とも羨ましい話である! 専攻が歴史学だと、流行り物の骨董品の時代に行き放題とは!!