第九話:神様の使い

平戸に南蛮の船が到着した。

長い航海を経て、遠い異国の地に到着したのは、フランシィ・ザビエール(フランシスコ・ザビエルではありませんよ。念のため)という人物である。

先年似たような南蛮人が薩摩に上陸し、怪しげな南蛮の教えを布教。しかし、薩摩の守護大名・島津貴久は最初は許可した布教活動を後から禁止したため、一行は肥前の平戸に向かい、そこで布教活動を再開。

そして、後には周防に赴き、ここでも勝手に布教活動を開始。しかし、そこで謁見した大内義隆に、千寿を初め周りを取り囲む稚児たちとの悪い遊びを非難したため、怒りを買って追放されてしまった……。

さて、今回現れたザビエールなる男は、一風変わっていた。布教など関心がなく、とにかく商売をしようと考えていた。

しかしながら、平戸で松浦家のボロ城(失礼)と取引してもつまらないので、一番流行っていそうな周防・山口館を目指したのであった。そして、この男のすごいところは、商売のためなら何でもやるその執念で、すでに片言ながらこの国の言葉を話すことができた。

「千寿様、何やら怪しげな南蛮人が、お目通りを願っております」

殿様に謁見を求めるのなら、「お気に入り」経由で取次を頼むのが一番手っ取り早い。そこで、たかが十幾つの侍童に過ぎぬ千寿の元にわざわざ訪ねてくる輩は大量にいた。その辺に目を付けたところ、この南蛮人はただものではない。

しかし、会ってやる道理はないし、千寿は目下取り込み中であった。

昌興の軍勢はようやっと秋月城に到着し、これから総攻撃に向かおうというところ。ここで、秋月城の防御をゼロにし、人口も100人、治安もマイナスにしてしまえば、敵は戦わずして降伏せざるを得ないだろう。

しかし、本当に数値をいじるだけで、現状が変わるのだろうか? 防御ゼロになったら、目の前でいきなり城の石垣が崩れたりとか……? 結果を目の当たりにすることが出来ないので心配である。

山田とはそこそこ意志の疎通が出来たつもりではいたものの、だいたい商人というのは狡賢い。セールスマン=商人とか。いや、発明家とも言っていたが? まあ、ここはあの男の言葉を信じるよりほかない。

「千寿様、南蛮人がお目通りを、と」

殿様「下賜」の家来が大音量で叫んでいる。

どうやらくだんの南蛮人から相当な袖の下を掴まされたと見える。

千寿は覚悟を決め、ゲーム機の秋月城のデータを全て最低の数値に変更してから、その南蛮人を部屋に入れた。

「オオ、ミメウルワシイ!!」

これが、その南蛮人の発した第一声であった。

ミメウルワシイ=見目麗しい!? この怪しげな挨拶は何なのだ!?

「無礼な! 何者だ?」

「ワタシハ、タダノナンバンジンデス」

「そんなもの、見れば分かるわ。言っておくが、太守様はお前のような南蛮人が大嫌いだ。分かるか?」

「ワタシ、フランシィ・ザビエール、カミノオシエカンケイナイネ。ワタシモノウル、トノサマカウ。ソレダケネ。トノサマミメウルワシイホシイ。ワタシソレウル」

「な、なに? ミメウルワシイを売る?」

山田は南蛮人の衆道批判が宗教的見地によるものだと言っていた。この男にはそういう考えはないということか? そして、どうやら、殿様の好みについての分析もバッチリのようだ……。

「オオ、ナンバンニモ、ミメウルワシイ、タクサンイマス。トノサマキニイレバ、ワタシオカネモチ」

まさか、隆房レベルのミメウルワシイをこの男が持って、いや連れているとは思えぬが。

「太守様は、南蛮人は嫌いだ。見目麗しくとも傍には置かない」

「オオ!」

南蛮人はそれは困った、というようなジェスチャーを交えて続ける。

「デハナニガゴイリヨウデスカ? ワタシ、ジパングノオウゴンホシイ。トノサマホシイモノヨウイスル」

南蛮人は千寿に詰め寄り、何とか話をまとめようと必死である。

「だから、取次はしない、と言っておる」

(キモい……何とかして……)

千寿に仰け反られた南蛮人は、がっかりして、天を仰いだ。

「アア、モウスグクリスマス! キセキオコルトオモッタ……」

「くりすます? なんだそれは?」

初めて関心を持ってもらえたようなので、南蛮人は大喜び。

解説にも熱がこもったのだった……。