第八話:秋月攻め

今日も今日とて、山口館で大内義隆に傅く千寿。

太守様は「執務中」であった。

大名たるもの、戦ばかりが仕事ではない。領国の経営も結構面倒である。税の徴収、家臣達の内輪もめの仲裁、官位を得るためには朝廷にも媚びを売らねばならぬし、神社や仏閣への寄進も忘れない。他にも明や朝鮮との交易まで行っていた。

勿論、ほとんどは家臣がやってくれるのだが、最終的に裁定を下しはんこを押すのは殿様の仕事だ。文机の上に山と積まれた書状を見て、殿様はうんざりした。

賢い千寿は読む気も起きない殿様に代って文書を音読。殿様はそれを聞いた後、面倒臭そうに一々判を加える。

この作業の最中にも千寿を膝に乗せて、せっせと戯れかかっていた。

「太守様、明日は子作りの日だよね?」

殿様のいやらしい手をそっと押しのけて、千寿が言った。

「ああ、もう気にするな。わしは行かんぞ」

この忙し過ぎる政務の間をぬって、公家趣味の宴や茶会を開き、寵臣・寵童とも戯れ、更に「子作りまで」。時間がまったく足りないではないか。

「奥方様の言いつけを聞かないと、千寿が怒られるの!」

「何を言うか。そなたはそこらの侍童とは違う」

殿様は千寿をぎゅっと胸に抱きしめて囁く。

「どこが?」

「そなたは、昌興の弟ではないか」

「そうだね。兄上が悪さをすれば、殿様に真っ先に成敗される」

千寿はやっとのことで殿様のいやらしい抱擁から逃れたが、またも引き寄せられた。

「そうではない。そんなことをするわけがなかろう? 誰がそなたの首を刎ねたりするものか。この愛らしい顔はその身体についているからこそ愛しいのじゃ」

人質の身分では、奥方に折檻されることもなかろう。

国と国との争いになる。

しかし、一方で、この殿様はそういう身分のものを平気で弄んでいる。

確かに、兄は大内家に臣従してはいたが、一応は当主である。

そこらの殿様直臣の子弟と同じ扱いはやめて欲しい。

「明日も明後日も、今後一切わしは行かんぞ。そなただけが愛しい」

(だからーーもう、やめてよ。キモい)

千寿は例のゲーム機から、「キモい」という語を学習した。どうやら、ゲームソフトの元持ち主はとんでもない駄文物書きだったらしく、「作者自慢の」編集イベントは、どれも面白くない上に品性を欠く。しかも、歴史的知識もまるでなかったとみえて、平然と千寿の時代にはあり得ない未来の俗語を多用していた。その中でも「キモい」という言葉は使用回数最多であった。どうやら「気持ち悪い」という意味であるらしい。

何となく、スケベな殿様にピッタリな気がした。

それはとにかくとして、明日子作りをやらないのなら、計画を変えねばならない。

次の子作りの日に、隆房と一緒に宇部に行く、そう約束したのだ。

それなのに、殿様が子作りをやめてしまうとは……。

何もかも奥方の言いつけ通りに動いている、要するに尻に敷かれている、そう思われたくないのだ。

「御館様、一大事にございます!!」

殿様が千寿とベタベタしている最中に、右筆の相良武任があたふたと駆けつけた。殿様に気に入られて、御前で書状の代筆などを行っている男だ。

(お前もキモい)

千寿はさっと殿様の傍を離れ、上から目線でこの男を観察する。

殿様のお気に入りにも色々な種類があった。見目麗しい隆房のような者が大好きだが、このようなにやけた醜男でも、話が合えば取り立てられた。

「何を大袈裟な……」

殿様は折角の昼間からのラブラブタイムを邪魔されて機嫌が悪い。

面倒臭そうに衣服を整えながら、相良のほうに向き直った。