第五話:未来の男と過去の少年

「あの武家の嗜みに全てを注ぎ込む殿様の元で、君は相当酷い目に遭っている。そうだな?」
「……南蛮人はみんな殿様に抗議する。そういうことは、やっちゃ駄目なんでしょ?」千寿は消え入りそうな声で言った。
「いや。彼らが言うのは宗教的見地からだろう。我々の社会ではそもそも恋愛の形態は様々だ。私はノーマルだが、男同士、女同士、なんでもある」
「え!? 女同士?」
「そうとも。男同士だけが認められ、女同士は認められないのは不公平ではないか。私の同僚など、同性婚だ。彼は男だがパートナーも男性だ」
「どうせいこん? ぱーとなー?」
言葉が通じないのは勿論、説明を聞いても、千寿には俄には信じがたい事ばかりである。
「私は君と隆房様とやらの恋愛に抗議する気はない。ただ、殿様のほうは問題だ。これは、未成年略取・誘拐及び監禁罪、いや強制わいせつに児童売春ではないか」
「……?」
「要するに、刑法上の罪を犯している。当然、君が住むこの時代にはそのような法律は施行されていないだろうがな」
「……罪?」
「そうだ。我々の世界なら、殊に社会的地位の高い人間がこのような罪を犯せば世間から相当なバッシングを受けるところだ。逆に言うと、そのような輩が少なからずいると言うことなのだが……」
「ばっしんぐ? ……殿様は罪を犯してるから成敗されてしまうってこと?」
「そうしてやりたいところだが、残念ながら無理だ。罰してやるには、先に法律ありきだからな。それに、実情我々の世界でも、こうした罪で死刑にまでなることはない」
「……」
「まあ、南蛮人ではなくとも、私は厳重に抗議するし、君の境遇に同情する。過去にこのような野蛮な行為がまかり通っていたなど、考えたくもない。せめて、戻ったら、歴史に詳しい者になりすまし、大内義隆がこのようないかがわしい人物であったことをネットに流して、史的評価が貶められるよう努力しよう」
ネットに流すと言う意味は、千寿にはさっぱりだ。しかし、山田の世界では罰せられるはずの殿様が、こちらでは大きな顔をしていることだけは分かった。どうやら、すべては自らの境遇がもたらしたもののような気がした。
「仕方ないよ。千寿は人質だもの。何をされたって文句は言えない。そんなもの、千年先にはないよね?」
「いや。ある。立て籠もりやハイジャック、もしくは何らかの犯罪組織が、自らの要求を通すために、ジャーナリストなどを拉致して人質とするケースもある」
「……?」
例えどれだけ時間をかけて語り尽くしても、二人が解り合える望みは薄いだろう。お互いの生きている時代があまりにも違いすぎるのだ。しかし、山田が千寿に対し、同情してくれたことは確かのようだし、千寿にも一応その気持ちが通じたらしい。
メガネの奥の切れ長の目は、暫し慈愛に満ちていたし、小生意気な少年も、一時しおらしい普通の子供に戻っていた。
だが、二人には別れの時が近づいていた。
先に言葉を切ったのは千寿のほうだった。
「先を急ぐようだから、確認をしておく。我はそのゲーム機とやらを用い、意のままに天下を操り、兄上の覇業に手を貸すことができるのだな?」

「そのはずだ」
「はず?」
「私は今まで考古学研究室での手伝いでマシンを操縦していたため、縄文時代などにしか行った事がない。このリアルプレイをやったことはないのだ。あ、最後に一つ、大名などには、ランク付けがあって、君の兄さんや君たちのようににSランクの人物はAIが高いので強いが、敵もまたしかり。例えば……」
山田は再び画面をタッチ。
「な、なんだと? 織田信長がランクCになっている。この元持ち主は、史実武将にまで捏造を加えているようだ……。これはもう、とんでもないインチキだ。君らに関係ありそうなのは、地理的に見て、毛利とか尼子か? お、毛利家は全員ランクCになっている……少なくとも毛利元就はSに違いないのだが……何か恨みでもあったのだろうか?」
「でも、千寿はないんだよね」
千寿はぽつりと言った。彼が知りたいのは毛利や尼子などではなく、隆房様と自分自身のことだけだろう。だが、人物表に名前がない以上、確認は出来ないに違いない。