第三話:宝の山と捏造製造器

千寿の部屋に通された山田は、そこが文字通り金銀財宝の山であることを見て、びっくらこいた。殿様はケチであったが、お気に入りへの待遇は最高のようだ。ありとあらゆる名品の数々がそこにはあった。どれもこれも、殿様より下賜されたものだそうだ。
「おおお、これはすごい……いや、しかし、私一人ではとても運びきれんな」
そう、新たな問題が生じていた。お宝は山ほどあったが、山田には二本の腕しかないし、荷運びの者を雇ったとしても、タイムマシンに積み込める量には限りがあった。「うーむ。せいぜい3分の1くらいしか運べないだろう……。しかし、本当に全部くれるのか?」
「それはお前の条件次第だ」
千寿は山田に対して、例の雲外門のコントローラー、つまり山田が殿様に手渡したリモコンのようなものだが、あれと同じものを手に入れること、さらに、山田のゲーム機をくれること、を条件として提示していた。それが叶うならば、部屋中の下賜の品はすべて山田のものとなるのだ。
山田の持っているゲーム機には、現在「信長の野心・リアルプレイ版」と言うソフトのカードが挿入されていた。カード自体は中古で購入したので、金銭的な問題はない。しかし、ゲーム機はかなり高額だったから、それこそケチな山田にとってはかなりの痛手である。しかし、それも、これらの金銀財宝の山と比べたら塵芥であった。
一時期、タイムマシン使用についての規制が緩やかであった時代、誰もがそれを使って古代への旅を楽しみ始めた。そして、500年もの歴史をもつ、人気ゲーム「信長の野心」にもとんでもないシステムが導入された。
元々は、プレイヤーが織田信長などの大名を選択し、その人物になったつもりで、内政や合戦を行い天下の統一を目指す、というなりきりシミュレーションゲームに過ぎなかった。しかし、タイムマシンの発明が、このゲームを劇的に変貌させてしまった。マシンとリアルプレイ版ゲームとの夢のコラボレーションである。
>タイムマシンで戦国時代にトリップしたあと、そこで、この歴史SLGをプレイする。すると、ゲーム内でのプレイヤーのプレイ状況が現実世界に反映される。つまり、その時代の歴史が勝手に上書きされ、ゲームの中と同じになってしまうのだ!
この仕様の追加により、プレイヤーは神ならざる手で、チートを繰り返し、自分の好きなマイナー大名家を強くしたり、とんでもない歴史の捏造をリアル体験できるようになったのだ。
暫くの間、このゲームとタイムマシンは大流行し、それこそ猫も杓子もタイムトラベルしていたのだが、何やらの学会で歴史に対する冒涜だとか、神にも反する許されざることだとか取り沙汰されるに至り、ゲーム会社は廃業に追い込まれ、タイムマシンの使用自体が制限されることになってしまった。
しかし、もうヒマで金もある連中は、これらの遊びをやりつくした感があったので、みな大人しく、国のお達しに従い、今は宇宙旅行のほうが楽しみの主体となっていた。
今回、山田は法律を破り、タイムマシンを使っての密貿易という犯罪行為を行うにあたって、何かの役には立つであろうと、今はゴミ扱いで投げ売りされていたこのゲームソフトを中古で購入したのであった。勿論、歴史マニアではないので、捏造を行うのが目的ではない。ただ、リアルでその時代の知識が得られることから、何らかの助けになると思ったのである。
何しろ、戦国時代にはインターネットはないから、分からない事をサクサク検索することは無理である。とは言え、事前に歴史の勉強をする必要性も感じられないので、元ゲーマーの山田としては、せいぜいこのゲーム機から現状を確認できれば満足であった。何しろ、ゲームの中には、地図やら、人物紹介やら、更には現在地を示すGPS機能までついていたからだ。
ところが、どういうわけか、織田信長の安土城に行って取引を行うという、当初の目論見は外れ、しかも、買ったゲームソフトが中古品であったために、あらかじめ怪しげな捏造が加えられた、ゆがんだ世界に到着してしまったらしかった。
山田は千寿の持つお宝を調べた。調べれば調べるほど、すべてを持ち帰れないことが悔やまれる。せいぜい、四つか五つが限界だった。が、それでも、一つが家一軒買えるくらいの値打ちはあるから、一生とは言えずとも、暫くは遊んで暮らすのに十分だ。
「おい、そのゲーム機とやらを置いていけ」
「いいだろう。君にやる」
山田はざっと、使い方を教えてやった。恐ろしく呑み込みが早いので、使いこなすのに時間はかからないだろう。