室町カルチャーセンター

秋の歌

明応二年秋
明応二年秋
ミル

秋の歌を集めようと思っていたら……冬になっていました。古文の世界では、秋は七月~九月です。だから、七夕が秋の歌にでてくるわけ。紅葉の季節はこれからだというのに、和歌の世界では十月は冬なのだった……。

古文における四季と月の名

古語辞典にも、受験参考書にも必ず書いてある話なので、あえて書く必要もないのだけど、月の名とか、いまだにあいまいだったりするから、そのたびにほかの辞書を見たり、検索したりしなくてすむようにいちおうここにも書いておくことにした。

古文での四季

春 一月~三月
夏 四月~六月
秋 七月~九月
冬 十月~十二月

試験関係なければ、暗記しなくてはならない事項でもないけれど、『古今和歌集』でもなんでも、春の歌、夏の歌、秋の歌、冬の歌とあるときに、これらの季節がイマドキとずれていて違和感がある。七夕が秋の歌とかなんだか変だし、四月からもう夏になるとか早すぎる。

そもそも暦が現代とは違っていたから、当時の人的には違和感がなかったはず。この辺り、「当時は陰暦だったので云々」とやられるとまったくチンプンカンプン。和歌集を読むとき以外は無視することにしている。そもそも、受験勉強で年代暗記するとき、何月か、まで覚えさせるケースってあるのだろうか? 同じ年にいくつもの重大事件が起こっていて、早い順に並べるとか、正誤問題でありそうだけど、そこら辺、「流れ」でわかりそうなので。

「陰暦云々」が問題となるのは、○○の合戦は何年何月、とか細かいことを気にしだしたとき。古戦場跡で、ガイドさん方が「当時の九月といえば……」てな感じで、陰暦とのズレを説明してくださる。纏わりついて質問すると、たいてい親切に計算方法などもご教授くださる。

で、とりあえず、その恐ろしく複雑な問題は保留しておいて、月の名前。すべてがそうとは限らないけど、古文を読むとき、四月と書いてあっても頭の中では「うづき」と仮名を振るように、と仰る先生もおられる(そのくらい頭に叩き込め、という意味かな?)。

月の異名

一月 むつき 睦月
二月 きさらぎ 如月
三月 やよい 弥生
四月 うづき 卯月
五月 さつき 皐月
六月 みなづき 水無月
七月 ふみづき(ふづき、とも) 文月
八月 はづき 葉月
九月 ながつき 長月
十月 かんなづき(かみなづき、とも) 神無月
十一月 しもつき 霜月
十二月 しわす 師走

もちっとグレードアップした呼び方もあって、これも普通に「孟夏」に○○がやってきた、みたいにあった時、まさか四月のこととは思わなかった(どう見ても八月とか、熱帯夜のころと感じる。テキトーはダメで、辞書を引かないと怖いと思った)。というようなことで、万が一のために、それらも書いておきます。

一月 孟春、上春
二月 仲春
三月 季春、晩春
四月 孟夏、初夏
五月 仲夏
六月 季夏、晩夏
七月 孟秋、新秋
八月 仲秋、正秋
九月 季秋、晩秋
十月 孟冬、初冬
十一月 仲冬
十二月 季冬、晩冬、残冬

参考書によって、取り上げ方が微妙に違うけれど、これらは小西甚一先生の『基本古語辞典』に載っているもの。「季名」というらしい。恐ろしいことに、月の名には、ほかにもさまざまな別称があるけれど、そこらはもう、いちいち辞書を引くしかない。ちなみに、上の「季名」のうち、IMEに登録されていないものがいくつかあった。なので、普段使うことはほとんどないと思う。

秋の歌

立秋

吹く風のおとよりは猶ほどもなき年の半におどろかれぬる

早秋扇

扇をやたとへて見まし月はまたあるかなきかのはつ秋の空

初秋風

荻の葉の去年のやどりや尋ぬらんいまだ旅なる秋の初かぜ

荻風

夕ま暮風のやどりやせばからしとひ捨ててゆく荻の一もと
ゆふまぐれはらひ尽して荻原や風に露をく軒の下草

夕荻

さびしさはただ宿からの夕にてさもあらぬ草も荻の上風

夜荻

おきゐつつ人は目さますさ夜中に独ふしたる風の下荻
見るがうちはおどろかすともしらざりし夢の跡とふ荻の上かぜ
わきていまさむるともなしうたたねの夢にも聞し荻の上風

籬荻

まがきのみふりぬる宿はかたぶきて露おもからぬ荻のうは風

荻似人来

聞きなれてたまたま人のとふ夜半も真木の戸あけぬ荻の上かぜ

待七夕

いつとなき年月よりも秋のきてさぞ待どをの星合の空

七夕

今夜さへしほるやあまの川社いかに衣をほしあひの空

七夕衣

七夕の待夜の袖やささがにのいともてをれる衣なるらん

七夕月

久堅の天の川瀬の夕月夜見ぬ影涼し秋のはつかぜ

七夕草

逢ことのいとかくかたき七夕に忘るる草の種やかさまし

七夕別

秋毎にあかつきばかりうき物とおもひやなれし星合の空
あけぬとも天の川船まてしばしこは世にしらぬ別ならねば

おく露は玉の台のま萩原たがいにしへの宮木ののあと
分けわびぬ又むすぶべき露だにもちる袖をしき秋萩の花
身にかへて花にやなるる狩人のいる野の萩にをしか鳴くなり

野径萩

露おもき野べの萩原風たえてゆきかふ人の袖やまつらん

水辺萩

かげうつすふる江の水はかれはてて猶色ふかき秋はぎの花

草花早

わが秋を待ちえて色やまさるらん夏よりさきし萩の一本

草花

わきて猶ふかき色かな咲く花の一もとまじる庭の蓬生
白露は名のみなりけりおきかへて花をいろなる庭の草村

蘭薫風

袖ちかく匂ひはかぜにまつはれて松をよそなる藤ばかまかな

行路薄

路の辺の柳は散りて白露を又玉にぬくいとすすきかな
立ちとまる人こそなけれ花すすきまねきなれたる野べの秋風

原薄

草の原なびく薄や咲く花におほふばかりの袖の秋かぜ
もろこしの浪路もかくやはてしなきをばなを分くるむさしのの原

原刈萓

分けいればをばなかるかや谷ふかみ山路はてなき武蔵のの原

秋庵

さびしさはまねくとここにとひくるや尾花かりふく山の下いほ

隣槿

咲きこずはなほぞ程なき中垣の西にねをさす槿の花
あだし色に花こそさかめ中垣やぬしさだまらでかかるあさがほ

槿不待夕

うきときといつ知初めて槿のあふことかたき秋の夕暮

秋夕

思ひのこすことこそなけれあはれのみせめてもよほす秋の夕ぐれ
とはばやないづくもおなじながめかとこまもろこしの秋のゆふ暮
なにの色も霧立こむる野山よりうきはもれくる秋の夕ぐれ
あやにくに月見る夜半はさもあらで夕暮長き秋の空かな
袖のほかに雨も落けりあはれをば空にもしるや秋の夕暮

秋夕情

人なみに夕の袖やしほらまし秋よりほかのうきになれずは
いつとしもいかでかわかむ世中のうからぬ人や秋の夕暮

遠村秋夕

すむ人も心やよそに出でぬらん遠山もとの秋の夕暮

山家秋夕

ことわりと思ふにやがてなぐさみぬ此山里のあきの夕ぐれ

秋夕風

はらふべき露をばいとどおきそへて猶袖ぬらす秋の夕風

野分

野分ふく庭の千草のおきもせずねもせで花を思ふ夜半かな
しをりつる野分のあとの山かげにひとつやふたつ落葉をぞきく

朝野分

露ならで散るとは見えず野分にもつれなき色やあさがほの花

浅茅露

花にそむ人の心はあさぢふやそのいろとなき露の夕暮
おもひやる露の夕の心さへしをれて帰る浅茅生の宿

われもうき秋の思ひにことはりのなしとはきかぬ虫のこゑかな

夕虫

野辺よりも思へばふかきあはれかなうつす虫籠の夕暮の声
秋ならぬ夕なりとも虫のこゑあはれなるべき野べのいろかな

夜虫

月もなき庭のあさぢふさ夜深けてただ虫の音に秋風ぞ吹く
影ほそく有明の月は出でながらくらきまがきに虫のこゑごゑ

原虫

限なき秋の思ひを虫のこゑたれにかかこつむさし野の原

促織

道の辺や柳がもとのいとすすきむべもはたおる虫ぞ鳴くなる

稲妻

わきかねついづれかうつつうたたねの夢の枕に稲妻の影
待つよひのたかねの雲の稲妻や月にさきだつ光なるらん

暮天月

雲消ゆる入日の跡にとく出でてくるるきはなき秋のよの月

月出山

すみのぼる空にもまさるながめかな半出でたる山のはの月

月前眺望

出初むる月のこなたにあらはれて見し心ちせぬ峰の松原

松間月

出でやらで木の間におそき秋の月吹きやは帰す峰の松風
引きうゑし見ぬ代の春の子日まで木のまの月につらき宿かな
もりかぬる葉分は春の心ちして松にかすめる秋の夜の月

嶺月

夕ま暮ききつるこゑか秋の夜の月よりかはる峰の松風
雲ふかき月の桂の初紅葉そむる時雨や峰の松かぜ

谷月

峰たかき谷のいほりは中空に深行く影や山のはの月
谷陰やたかねめぐりて見る程はただ短夜の秋のよの月

滝辺月

滝つせや落ちても水の水上に光つきせぬ秋の夜の月

河月

あすか川いかにながれて渕瀬にも光かはらぬ秋の夜の月

海辺月

なるとにもとまらでぞゆく大島やなだのかち路の秋のよの月
よひの間は松にくもりて箱崎や明がたはるる浪の上の月
松浦がたそこともしらぬ唐の山のはつらく月ぞかたぶく

江上月

難波江やあしの本だち数見えて水底清き月の影かな
心なきあまにはあらじたび人や入江の月に小舟漕ぐらん

釣夫棹月

海士人も舟出してけり釣の糸の長き夜あかす月にうかれて

関路暁月

清見がたかたぶく月の影とめて関のかひある冨士の白雪
こえわびぬ影も都にとほざかる関のこなたの有明の月

駒迎

立出でば今夜の月もくもるやと其名もつらききり原の駒

原上月 八月十五夜

名にたかき今夜の月を冨士のねにならべて向ふ武蔵のの原

立待月

まちわぶる今夜よいかに程もなく昨日は出でしいざよひの月

野月露深

雨とふる木の下露はしげくともみかさはいかが宮木野の月

秋園月

なれもさぞやどりかぬらんおのづから草木おひたる園の月影

故郷月

あれはつる軒の忍のすり衣きつつやつるる月の宮人
かげもをし人に見せばやふる里にひとり深行く浅茅生の月
やどりせし千草も月のふるさととなりてかたぶく露の秋風

苔径月

ゆく人は絶えて木の間をもる月の影こそかよへ苔のふる道

月前鐘

すゑ遠き野寺の鐘もふけはてて千草の露にすめる月かげ
はつせ山尾上の鐘もこゑやめて月に任せよ秋の夜の空
向ふまはふくるもしらでまだよひの鐘なる雲に月ぞかたぶく

深夜月

鳴虫のこゑさへ遠く深くる夜の真砂の庭ぞ月しづかなる

何ごとかうき世に心とまらんと忘れてかこつ秋のよの月
くまもなくさやけき月にしぐるなり軒の忍ぶの露の秋風
心なく花の千草をかりぞふく野守がいほり月にあらさで
さらぬだに野寺さびしくたつ杉の梢におつる有明の月
深けにけり今はといそぐ山のはの月にもつらき鐘の音かな
うかれゆく心を捨てて山の葉に独かくるる月もうらめし

暁月

高砂や松の秋風さ夜深けて尾上の雲に有明の月
をしかりし夢も忘れて向ふかなねざめうれしき有明の月
見し夢を送るとなしにおき出でて立ちやすらへば有明の月
明けぬるかとまる鳥は啼きたちて月は木ずゑのもりの一むら

潤八月十五夜

おなし名に半過ぎても照すなり秋くははれる秋の夜の月

月契潤月

忘るなよゆきめぐるとも数そふは年にまれなる秋の夜の月

海辺鹿

みつ塩の入江の月にきこゆなりさすやをぶねのさをしかのこゑ

鹿

心をもさのみはいかが尽すべき木のまの月にさをしかの声
おどろかす門田の月の鹿のねに心なきしづがまことをぞしる
ね覚して独物おもふと思ふ夜のわれなぐさむるさをしかのこゑ
うす霧のよそにかくれぬ思ひともわがこゑしらで鹿や鳴くらん
暮れはてぬ野は人しげみ出でやらで外山のすそにをしか鳴くなり

鹿声遥

吹きおくる嵐のつてに聞えきて鹿の音さむき秋の山本

秋窓鹿

月影は木ずゑにくらき杉の庵の窓に入りくるさをしかのこゑ

秋田

をしかなくいなばの露の秋風に行過ぎがたき小田の中道
昨日かもとりし早苗の五月雨ややがて稲葉の露とおくらん
露ふかき田面の霧の朝じめり稲葉そよがぬ秋風ぞふく

秋田庵

たれすみてながめわぶらん小山田の蘆の丸屋の秋の夕暮

羇旅雁

ふる里を出でし心はしらねどもたびねの雁のこゑぞかなしき

霧中雁

いくつらかはや過ぎぬらんおき出づる霧の朝けの天つ雁がね
明けわたる田面はるけきうす霧の山のこなたに雁の一つら
朝霧になれし田面や迷ふらんゆく人ちかくおつる雁がね

田上雁

もるとなき田面しられて夕暮の遠山あひにおつるかりがね

月前雁

思ひ出でてさやけき秋も雁やなく都わかれし春の夜の月
うきねする入江の月の色そへて枕のなみにかりぞ鳴くなる

陰くらき木の間の月に立鴫のゆくへもしらぬ秋のを山田

月下擣衣

うつこゑのひびきもさぞな久堅の月の都の雲の羽衣
月影にむべも恥づべき麻衣うたぬ宿もや心あるらし

聞擣衣

きく人のあはれもしらでしづのめやただわがための衣うつらん
うつ音は夜ごろかさぬる麻衣うすきやしづがたもとなるらん
よそにきく夢をばしらでさむき夜におどろくしづや衣うつらん

独擣衣

ねられぬはわれのみならで山びこも夜さむなればや衣うつらん

里擣衣

まどろむもおなじ夜さむの里人や夢のうちにも衣うつらん

擣衣

手もたゆくうつ人よりもあさ衣音せぬ宿の夜さむをぞしる
手やたゆきよわき砧の音ばかりふけてのこれるをちの山本
いとせめて秋さむければむば玉のよるは衣をうたぬ間もなし
しののめの空を限にうつこゑはたがきぬぎぬの衣なるらん

擣衣響風

ふく風の空にみだれて音すなりうつや落葉の衣なるらん

暁霧

雲もなくさやけきよりもうす霧の梢にのこる有明の月

堤上霧

うす霧もふるきつつみにもる水の音ばかりする秋の山本

河上霧

河風の橋ふきこえて夕霧ののぼればくだるうぢの柴舟

野径鶉

うづらふす床はいづくか秋風になかぬこゑきく深草の里

小鷹狩

かり人もきかばあはれの深草やわかれし妻にうづら鳴くなり

はらひかねいづくに風のやどるらん露に露をく野べの村雨
ふる里は草木も物や思ふらんわきて露けき秋の夕ぐれ

野草欲枯

秋ふかく成行野べの朝な朝なかるるとなしにおもがはりぬる

なほざりにいかでかめでむ一年の花の名残の庭の白菊

谷菊

ゆく水に影をならべて岸の松千代やともなふ谷のしら菊

月前葛

をしめども帰らぬ月はかたぶきて尾上の真葛秋風ぞふく

青かりしほどはかかれるつたのはの紅葉をかくすあけの玉垣

秋日村雨

秋の日の残るもよわき山のはの夕の雲におつるむら雨

櫨紅葉

鶪のゐる櫨の立枝はさもあらで夕霧うすき秋の山本

露染山葉

山姫にとはば露とやこたへまししぐれぬさきの秋の一しほ

初紅葉

昨日見し時雨の跡の夕日影そのままのこる峰の紅葉葉

紅葉一樹

たぐひなき色こそあれど露時雨ならぶ梢や染めのこしけん

山紅葉

むら時雨そめし紅葉の色までも猶定めなき峰の秋霧

夕紅葉

色もなきひびきぞかはるをはつせや紅葉を出づる入あひのかね

紅葉映日

花にのみまがふと思へば夕日かげにほへる雲も峰の紅葉葉
紅葉ばに夕日照そふをぐら山あまりなき名のたつ錦かな

河紅葉

立田川わたらぬ錦中たえて紅葉もうつる松のむらだち

暮秋露

限あれば秋は暮行く草木にもまだ染めはてぬ露やおくらん

暮秋時雨

むら時雨ふるは涙か立田姫もみぢをのこす秋の別路

暮秋荻風

長月やうつろふ荻に吹くこゑもうかりしままの秋のはつかぜ

暮秋

夕ぐれのうきことばかりさきだてて日数はのこれ長月の空
あはれてふことをあまたの秋ふけて今はとおもへば有明の月
うき世にはわれさへあきのくれてゆく道しるとてもいかがしたはん

九月尽

秋はいぬうしとかこちし夕暮に心見ゆべきけふの空かな
暮毎のうさははなれじあすよりは心や秋の形見ならまし

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