第十話:忠臣の悩み

「此度の戦、既に大勢は決まった。あと一月か二月もすれば、少弐親子は炙り出され、すべて終いになるだろう。だが、これだけの軍勢を動かす機会もそうないと思う。そこで、そなたに、特別に頼みたいことがあるのだが。引き受けてくれるだろうか?」

「特別に」頼みたいことと聞き、護郷は早くも感激している。

「何なりとお申し付け下さい。たとえ、どんなに困難なことであろうとも、必ずや力を尽くします」

「そなたなら上手くやり遂げてくれるだろう事は分かっている」

護郷はこれ以上ないほど感激し、もはや涙で義興の顔もよく見えぬほど。脇で見ていた興房は気の毒に思った。

「これより軍を二手に分けようと思っている。一手はこのまま筑前掃討を続け、もう一手は肥前に入り少弐の本国を抑える。その、肥前一国の事を、そなたに任せたい」

「それがしに、肥前一国の事を……」

「うむ。肥前の国は少弐のせいで乱れ、探題・渋川様は城にも戻れず難儀しておられる。肥前を平らげ、探題様を無事に帰国させること、それらすべてを頼みたい。此度、筑前の事は、直ぐにも片付くと思う。だが、肥前は少弐の牙城であるから、そう簡単にはいかぬ。さりとて、少弐が片付く前にも大友が動かんとしている。つぎは豊前が危ういはずだ。我には分身の術など使えぬからな」

興房は思わず吹き出しそうになり、咳払いでごまかした。

「我らが心置きなく大友が事に当たれるよう、背後はすべてそなたに任せるのだ。この任、全うできたら、九州で最大の功労者はそなただ」

護郷はその手で涙を拭うと、義興の足下に跪いてこの「特別な任務」への謝意を表した。

義興は、護郷を起ち上がらせると、

「その暁には、もう道頓のことは忘れて欲しい」

そう言って、ぽんと肩を叩いた。護郷はその言葉を聞き、「え?」とばかりに、興房を見た。興房は目を逸らして、知らぬ顔である。

翌日、この使命感に満ちた無骨者が肥前へ向かうのを見送り、義興と興房も感無量であった。彼がよりいっそうの手柄を立てて戻って来るときには、すべてのわだかまりが消えてくれていれば良いのだが、と二人は心から願った。

こうして、少弐軍を駆逐した義興は、博多に本陣を置き、軍勢の半分を仁保護郷に預けて肥前に遣わし、自らは博多に残ってなおも戦闘を継続した。

二分されれば、軍の勢いも当然半減する。だが、それでもなお圧倒的に敵を凌駕しうるほどの「大軍」であったことが知れる。六万もあながち誇張ではないと思う。