第十話:忠臣の悩み

明応四年の内乱で政弘父子に誅殺された内藤弘矩、弘和父子。彼らとて、弘矩の兄が道頓の与党であった。しかし、弘矩本人は、上洛して政弘の陣中にいたから、分国の兄とは無関係であると言い張った。それが、本当かどうかなど、本人にしか分らない。しかし、その後も平然と家中の家老格に収まり続けた。確かに、道頓の件で常に何かしらの負い目を感じていたことが、その後の政弘と組んでの弘護殺害など諸々の出来事に連なっていることはあり得る。しかし、表面上は随分と偉そうに振る舞っていたではないか。

弘護を直接刺殺した犯人である、吉見信頼は、その一族がその後、平然と再出仕して武護の怒りを買った。彼らは元々、道頓の与党だから、現在出仕中の連中とて皆、同罪のはずだ。しかし、誰一人、もうそんな昔のことまで遡ってあれこれ言ってはいない。一種の黒歴史として、既に清算済みだ。

それなのに、この伯父ときたら、正直な忠義者であるためか、たった一人で、家中全員の負の遺産を背負い込んでしまっているようだ。

またひとしきり、護郷の悩みを聞かされた後、興房は義興のもとへ向かい、すべてを打ち明けた。

「何? まだそんな昔のことを悩んでいるというのか……」

義興には思いもよらぬことであった。すでに、数多の手柄をたて、身近で過ごす機会もあったので、まさか胸の内になおもそんなしこりが残っていようなどとは、考えたこともなかった。

皆が護郷と同じ悩みを抱えていたとしたら、内藤弘矩や吉見家の連中はどれだけ厚かましいか、ということになる……。もはや、誰一人、そんな過去のことには拘っていないはずだ。

「気にすることはない、と何度も話したのですが」

この話は、長いこと護郷の胸の内だけにあった模様で、武護や興明などに語られた形跡もなかった。恐らく、興房になら話しても良いと感じたのであろう。しかし、相談された興房とて、何をしてやれるでもないので、話はそこで止まっていた。だが、今度という今度は、もはや義興の耳にも入れるべきである、と興房は決意したのである。

「此度の戦は、過去のことを水に流し、御館様に認められるための良い機会だ、と伝えたのですが、もはや十分に期待通りの働きはできているかと。これはもう、御館様の口からこれ以上ないくらい褒めちぎって、『過去のことは水に流す』と明言してくださる以外、伯父が解き放たれる術はないのではと」

その後暫く、義興も何やら考え込んでいて、今日この日の会合となった。