第九十八話:告白

「亀童を呼んでくれ」

病床の政弘が今小路に頼んだ。

「お前たちは、下がっていよ」

政弘は、今小路が止めるのもきかず、医者や傍仕えの者を全て外に追い出してしまった。そして、義興が駆けつけると、今小路にも外へ出るように、と合図した。

母は息子と夫とを相互に見遣った後、黙って部屋を出て行った。

「何か、他の者に聞かれては困るようなことでも?」

義興は淡々と言った。どうしても、父の「悪事」を知って以来、それ以前のように父に接することができなかった。

「お前に話が……」

「話とは?」

政弘は力なく笑った。

「……弘護めが、呼びに来よる。最近は弘矩までもが……お前の友……何と言ったか……」

「鶴のことでしょうか」

「おお、そうだ、鶴、鶴寿丸であったな。あいつだけは来ない」

義興は思わず政弘から目をそらした。既に世を去ったものが「迎え」に来ている。その中に、鶴だけがいない、ということは、彼が「死んではいない」からでは? そのことが父に見抜かれていたとしたら恐ろしい。

「思えばわしも、数え切れないほどの、者を、手にかけた……戦とはそういう、ものだ。だが、そのような場で死んだ者は、会いに来たりはしない……だが、うぬらは」

そう言って、政弘は誰もいない天上を指さしている。

義興もそれにつられて、天井を見上げたが、当然、何一つ見えなかった。

「今日は気分が良い……だから、今のうちに、そなたに、話を……」

そう言いながら、政弘はまた咳き込む。医者を呼ぼうとした義興を、政弘が押しとどめる。

「これから言うことは、すべて、そなたとわし、だけの(ごほっ)、秘密だ。良いな?」

「分かっております。父上」

「わしが(ごほっ)、弘護を殺した。もう、知っておろう」

「はい」

出来れば知りたくはなかった。だが、今は「全てを知らなくてはならない」と思っている。

「あの男は、危険だった」

「危険? 叔父上のどこが危険だったのです?」

義興には納得がいかない。

「放って置いたら、この国はどうなっていたか……」

「どうもなりません。父上がご覧になったという益田家にあった書状も読みましたが、単に無礼であるだけで、そこまでの意味はなかったでしょう? 鶴など、それこそ、常に無礼な事ばかり言っておりましたが、私はそれでいちいち腹を立てたりはしませんでした」

そこまでというのは、無論、弘護の「叛意」のことである。

「お前も、鶴も、それでよくとも、見逃さぬ者は、かならずおる……」

「……」

細川政元のような連中のことか。大伯父の大内道頓は、細川勝元に唆されて謀叛に及んだ。何も、謀反人が血縁者である必要はない。同じく、細川の誘いに乗った、越前の朝倉孝景は、主である斯波氏から守護の地位を奪い取っている。だが、弘護はこの道頓を討ち、分国を危機から救ったはずだが。

「伯父上に力などなかった……付き従う者も少ない……そんな謀叛は成功せぬわ」

政弘は義興に助けられて薬湯を飲んでから、更に続けた。

「弘護は最初、道頓に付いていた」

「え?」

そんな話は初耳であった。政弘は何やら可笑しそうに笑っている。

「誰もが知っていることよ。……そ、そなたは知らなかった、のか。あやつは、故意に『従うふり』をしたと言った。皆もそれに賛同したが……さあて、どうであったものか」