第八十話:再会

「宗景と申す出家がお目通りを願っておりまして。先ほどの書付を見れば、御館様は必ずお会いくださるとかで……」

取次からの説明を聞くまでもなく、義興には武護に会わぬ道理などない。

「館うちで待たせておけ」

そう言い終えて、自らも足早に居所に向かう。その後を、花が必死に追いかけてきた。

「お待ちください!」

「ん? どうした?」

足を止めた義興の前に花が、荒くなった息を整えつつ、例の宝石を差し出した。

「奥方様が、これを……」

「鶴に返せ、ということか。相変わらず細かい所に気が付くの」

義興はそれを受け取ると、足取りも軽く立ち去って行った。

(まるで子供みたい……)

花はそんな御館様を久々に見た気がした。どうせ、夫婦二人きりの時間に、使用人など邪魔なだけであったから、常に「お渡り」を迎え入れるお役目の時にお見かけするだけである。むしろ、蛍火を見たあの日のほうが長時間にわたって彼を目にした気がする。

しかし、当主という座に就いているだけあって、こちらの「お殿様」は、かつての内藤家のお殿様にもまして、威厳に満ち満ちたお方である。しかし、宮仕えでの不満を発散するために、使用人にあたりちらしたり、平気で袖の下を受け取ってにやにやしていた前のお殿様のような卑しさのない、ある意味完璧なお方であった。花のそんなイメージは、少しだけ崩れた。御館様も人の子だった。

さて、武護はどんな顔をして待っているだろうか。例によって人を小馬鹿にしたように悪戯っぽく笑いながら、出家などもうこりごりです、と頭をかくのだろうか。それとも、亡きお父上そっくりな涼やかな笑顔で、故郷が懐かしくなりました、などと格好をつけて誤魔化すつもりだろうか。いやいや、あるいは、本当に困窮して這々の体で帰り着いたのかも知れない。

取次ぎは「出家」と呼んでいたし、本人も「宗景」と名乗っているらしいから、坊主のままなのか。まあ、坊主を続けるのなら、三郎同様、どこぞの寺の偉い坊主に収まれば良いし、やめたいというのなら、どこかの守護代にでも任じてやろう。今の所「空き」がないが、それこそ筑後あたり、そろそろ手に入れてそこに入れてもいい。いやいや、最も欲しいのは陶家の家督だろう。だが、こればかりは、興明が居座ってしまったからどうにもならない……。

あれやこれや、先の事まで考えながら、友との再会の瞬間を想像する義興。それは、とんでもなく感動的なものになるはずであった。自らが畿内へ派遣した名もない配下が、紀州の地で武護の「人相書」ともども行き倒れになっていた、などということは全く知らない。いや、もう本人が戻ってきてしまったのだから、例の配下のことなど忘れてしまうだろう。

こんな時刻だが、一杯やるか、それとも、まずはゆっくり休ませてやるか、そんなことを考えながら部屋に入る。

ややあって、宗景殿をお連れしました、との声。

「うむ。中へ通せ」

武護はよれよれの着古した僧衣にざんばら髪のまま、という高貴な身分のお方にお目通りするには全くもって相応しくない姿で、しかし、何やら颯爽と敷居を跨いで中に入って来た。

「……」

義興は暫し言葉を失った。その姿を見て、例の最悪のケース「困窮して這々の体で」を想像したからである。だが、それにしてはこの颯爽たる動作は何なのだ?

まさか、美男は物乞いになっても様になるなどとは言えまいが……。

「お久しぶりでございます」

主から遙かに離れた場所で、平伏するその姿に、義興は思わず立ち上がって、その傍に駆け寄った。

「馬鹿者。今の今まで、一体どこにいたのだ? 皆がどれだけ心配したか」

溢れる涙で視界も曇る義興の前で、武護は例のごとく、人を食ったような言葉を吐いた。

「心配するどころか、いなくなってほっとしていたのでは? 城主になれた弟も、私を忌み嫌う大殿も、奥方様も、皆、私など『いないほうが良い』と思っておられるはずです。正直、今のままではこの地に我が居場所などないはず」

「……」