第二十八話:側近達

六角討伐は成功裡に終わり、明応元年(1492年)十二月、将軍義材は華々しく京に凱旋した(延徳四年=明応元年。七月に改元された)。

帰京なされた将軍様にお目通り願おうと、御所に赴いた新介と武護。しかし、そこで目にしたのは一種異様な光景であった。

門前には長蛇の列ができ、皆がその中に入るのを待っていると見受けられた。将軍様に御拝謁するのであるから、当然皆それなりの身分ある者たちに限られている。にもかかわらずこれほどの列をなしておるのだから、いつになったら中へ入れてもらえるのかすら分からない。

「うわ、これでは……。将軍様というのは、こうもお忙しいのですかね」

武護がここではさすがに小声で囁いた。新介は日を改めて、とも思ったのだが、恐らくいつ来ても同じようなものなのであろうと、あきらめて列に並ぶ。

さすがに、そう待たずに門内には入れてもらえたが、待合所から御前に辿り着くまでにはまだ相当の時間がかかると思われた。

「早くお取次ぎを頂かぬと、政務が動きませぬぞ。この政元が待っていると、今すぐお伝えせよ」

鼻息荒く喚いている男を見て、新介は武護と顔を見合わせた。どうやら、これが、「悪名高い」細川政元であるに違いない。京での評判など知りはしないが、少なくとも政弘が治める周防においては、名前に「細川」と付くだけで、もう「大悪人」と決まっていた。

その横暴ぶりから見ても、人柄が知れようというもの。しかし、このような男でも「待って」いるのだから、自分たちが拝謁できるのはいつになるのやら。

ややあって、取次の役人と思しき者がやっと姿を現した。

「御所様は何をなさっておいでなのだ? 急ぎの申状をお届けせねばならぬ。すぐにも取次を」

そう言った政元の言葉が耳に入らぬかのように、役人は辺りをきょろきょろとみまわしながら、

「大内殿はおられますかな?」

他にも大内という者がいるとは思えないのだが……。

「周防介様のご子息は……」

「ここにおりまする」

新介が応じると、取次の役人はこちらへと手招きをした。

しかし、どうみても順番が違うような気がする。その身分と、用件の重要性から言って、当然細川政元を先に入れるべきではないか。そう思ったが、そこは例の「大悪人」であるから、新介は平然と知らぬふりをして、役人の後に付いて行った。

「小僧め。一体どれだけの金を積んだのだ?」

背後で政元が罵る声が聞こえた。

(金を積む? 失敬な。誰がそのようなことを)

恐らくは、大乱の頃から続く、政弘と先の大御所様との誼のお陰だろう。そんなことを考えながら、長い廊下を進むと、何やら茶室のようなところに案内された。

「お供の方はこちらでお待ちを。無位無官の若造などがそう簡単にお目にかかれるお方ではありませぬよ」

武護はむっとしたが、仕方なくその場で待機した。

新介が部屋に入ると、白塗りの公家のような男が偉そうに上座に陣取っていた。

(京の者は皆公家のようなもの、と鶴が言ったが……まさか、将軍様までこのお姿とは……)

父・政弘と縁浅からぬ将軍様のお姿に、新介はとんでもなく不可解なものを感じ、かつてその麗しさに心奪われた「緑髪将軍」を思い出し、非常に失望したのであった。

将軍様の両脇に侍るのも、また白塗りの公家である。そのうちの一人が、偉そうに言った。

「これ、こちらは権中納言様であらせられるぞよ」

「……?」