012:ミルの「見える化」

城跡にやってきたこの世に未練がなくなったという彼女は、じつはまだまだ未練たっぷりだったことが分かる。
なぜって? お話ししていて、とても楽しそうだったからだよ。

ざっくりまとめると、彼女はいわゆるゲーマーで、戦国系ゲームというのを長いことプレイしていた。そのうち、五郎が成長した姿(←何なの、この呼び方は……)に一目惚れしてしまった。
って、あのさ、ただのゲーム内画像で、本人に似ているとか、何の根拠もないんですけど……。

それで、その画像を見ながら、本人いうところのブラックな職場環境にも耐えて頑張って来た。やがて、大好きな「陶様」をかたちある自分だけのものにするために、変な文章を綴り始めた。
その頃から精神的不安定に陥り、現実と空想世界がごちゃまぜになったのだという。さらに、自分で書いた妙な文章をネット配信し始めたところ、同じように下手くそな文章を配信している連中と血みどろの(笑)争いとなり、ついには精神を病んでしまった。

人生の最後に、「陶様」の城跡に来ることが願いだったらしい。
で、城跡に着いたのは良いけど、出逢ったのは「陶様」ならぬ僕だった。

長々とぶちまけた後、すっきりした彼女は、山頂まで探しに来た警察の人と一緒に帰って行った……。
警察の人たちは、彼女が「真夜中なのに、山頂に中学生がいます。彼もいっしょに保護してください」と喚いているのを聞き、救急車を呼ぶべきか相談した後、取り敢えずパトカーで山を下りて行った。
その後のことは、僕は知らない。

何だと? あの女にはお前の姿が見えた、というのか?
そうなんだよ。驚いたのなんのって。でもその後、警察の人には僕は見えなかった。
つまり、その女だけが持つ特殊能力ということか。
特殊能力? うーーん。そういうことなら、あの女の人が持っているより、僕が持っているっていうほうが楽しいのにね。
何を言うか。イマドキの連中なんぞに姿を見られたら面倒なことこの上ない
Name
宗景様、心配しなくても、今の姿じゃ、そこらのイマドキの女にはモテないから安心して良いよ(キッパリ)
な……
だって、どう見てもホームレ……いや、五百歳以上のお年寄りに恋心を抱く乙女なんかいないよ。嫌だな、やっぱりもてたいの?
うるさいな。妖怪のお前とて、五百歳を超えているだろうが
僕は乙女にもてたいとか、そういう願望ないよ。

でも、なんで彼女に僕の姿が見えたのか?
そして、僕はなぜ唐突に彼女のことを思い出したのか。

五郎のためだ。

そう、「腹減った」を連発する彼に、いつまでも木の根っこを食べさせているわけにはいかなかった。
世の中に、僕の姿を見ることができる人間が存在するということは、もしかしたら、そのような人たちを通じて、僕はイマドキの民と交わり、五郎のために食糧を仕入れることが可能かもしれないからだ。

でも、あの日彼女と別れて以来、僕の姿を「見た」人は誰もいない。
このまま山を下りたところで、買い物なんかできないのだ。

仕方なく、僕はネットで情報を収集した。
僕の秘密基地はイマドキの民からは見えない。つまり、ここにあるネットワークシステムはイマドキの民とは「次元が違う」ものなのだ。

「フェアリーネットワーク」

妖精だけか接続できるマジカルなファイバースコープが全世界を網羅している。これは、怨霊の宗景様や五郎には本来使えないものである。
だけど、マジカルなだけに、いつの間にか彼らも普通に使えるようになっていた。
人間界はあれやこれやを排斥するが、妖精の世界は何もかもを受け入れる。だからこそ、彼らの侵入を拒否しない。イマドキの民が僕たちの姿を見ることができないのは、「信じていない」から。
だけど、僕たちからは彼らがまる見えだ。

「ニンゲンたちと交流するには」

普通に検索しても出て来ないこの恐ろしいワードは、イマドキの民いうところのダークウエブみたいなところからしか見えない。
でも、ちょっとしたエンジニア並の知識と技術をもつ僕だからこそ、そんな裏側にも入れるのさ。

「禁断の秘術」

僕の目はブラウザに釘付けになっていた。

残念ながら、ここで「禁断の秘術」を明かすわけにはいかない。
これは暗黙の了解がある。
もしも、非合法な情報を勝手にオープンにしてしまったら、僕が犯罪者になる。だから教えてあげないよ。

僕はちょっとした「秘術」を用いて、一時的にイマドキの民と交流可能な術をマスターした。
さらに、フェアリーネットワークに置いてある貯蓄を一部切り崩し、イマドキの現金と取り換えた。
これは、フェアリー諸島にある妖精と人間の間を超越することのできるハイパー妖精がやっているフェアリーバンクでのみ可能なこと。
世界中の利用可能なホンモノのお金と交換できる。
きつねやたぬきが木の葉で作ったインチキなお金ではないからね。

ん? じゃ、お前のその「貯蓄」とやらはどこから、と?

それは、僕が果たした役割についての報酬だよ。

忘れてもらっては困るな。
僕は「樹木の精」。
つまり、ここら辺の樹木を管理する仕事を請け負っているんだよ。

ま、そう言う事で、ちょっと変装してコンビニに向かうよ。
イマドキの中学生そっくり?

ふふふ。「可愛い」中学生、って言ってよね。