二度あることは三度ある

 うまいこと〆おったわ。

神様は元毛利元就をちらと見遣ったが、むろん、あれらすべては神様が導き、死神が手伝い、ミル自身が創り出した新しい歴史だ。この男には関係ない。己の前世は知らないのだから、下界のことになど関心もないだろう。

 さてと。この件はこれでしまいじゃな。

神様はミルのことは忘れ、新たな「困っている者」を探し、下界からお眼鏡にかなうものを召喚する日々へと戻って行った。

ところが……。

ここで起こったのが、例の数話前の話である。

最後の瞬間、ミルは天界での記憶を取り戻した。
神様の配慮で、特別に生き返らせてもらったこと、「今後の展開が事前に分かっている」という特殊能力を利用して、歴史を変えること……。
それら諸々は、ミルの頭からなぜか抜け落ち、「使命」を達成できなかった。

五郎を助けることはできず、歴史は繰り返されたので、共に天界に連れてくることがかなわなかったのである。
少なくとも、大切なその御印は持ち帰ったつもりだった。
だが、それすらも「前世の所有物」にあたるので、天界に戻るにあたっては、前世の記憶共々、元いた世界に残してこなくてはならなかった。

神様も死神も、これらすべてを知っていた。だから、神様は、もうこれ以上、ミルにはかかわらず放っておこうと思った。今となっては、何も知らない、ただの天界に暮らす童となったはずだからだ。
手違いでミルの記憶を消し去ってしまった死神も、どうせ戻った時には記憶は消えているのだから、クレームが来ることはないだろうと高をくくっていた。

それなのに。

二度あることは三度ある

のであって、またしても、ミルは前世の記憶を引きずっていた。
御印は取り上げられたが、記憶は消えずに残ったのである。
質が悪いことに、ミルに紐づけられるべきは、ミルとして生きた前世の記憶だけであるべきはずが、それ以前の「千寿」という名前だった頃の記憶すら思い出してしまっていた。

ミルは元々、五郎に仕える少年・千寿だった
その後、神様の思し召しで天界にやってきた
自分が何者かはわからなくなっていたが、五郎への深い思いだけは消えていなかった。

そして、神様のご配慮で再び下界に戻してもらえた。
それらすべては、五郎様のためだった。
だが、死神の手違いで消されるべきではないはずの記憶が消され、千寿だった少年は、前世のことはなにも知らないミルという新しい人生を送った。

にもかかわらず、死してなお、僅かにこの世に留まっていた五郎の魂は、最後の最後にこのからくりに気付いた。
同様に、ミルもまた、この事実を知ってしまった。
二人はようやく結ばれたが、またしてもそれは、尋常ならざるかたちであった。

これだけの情報は、ミルの記憶の中に、なぜかしっかりと残った。
聡明なミルは、何もかもが、死神の手違いで、下界に下りた時に記憶が消去されてしまっていたことに由来すると理解した。
死神が忘れてくれるだろうと安心していたこの件を、ミルは「覚えており」、死神に対する抗議が開始された、というわけだった。

まいったな。お願いだから落ち着いてくれ。
少なくとも、お前があの男を、大切に竜宮城で弔ったという事実は消えないんだ。
それで満足しろよ。

じゃ、僕、竜宮城に帰るよ。もうこんな怪しげな天界になんて住んでられない。竜宮城で五郎様と暮らす。

そ、その……。あいつは……。
頭部だけになっている男とどうやって暮らすのか、とは、死神には言えない。
オスカーワイルドのサロメは耽美主義の傑作だが、生身であのようなものを目にしたら、正直気持ちの良いものではない。
そんな死神の顔を見て、ミルはますます激高し、今にも死神を蹴倒そうかという勢い。

困ったなぁ……。
言い合いを続ける二人のもとに、とうとう神様がやって来てしまった。

神様:まったく、お前と来たら、またしても、前世の記憶が残ったままではないか。どうしたものかなぁ。だいたい、特別に下界へ戻すものについては、記憶を消してはいけないとあれほど……。

神様に睨まれて、死神は生きた心地がしない。

お願いです。もう一度、やり直させてください。今度は、こんな役立たずで能無しの出来損ないな死神ではなく、もっと優秀な人をパートナーにしてください。そうしたら、絶対、今回みたいなことにはなりませんから。

そう言って、ミルはまたはらはらと涙を流す。
ここまでくると、神様も見た目通りに信じるわけにはいかず、かの大内義隆も、この少年にどれほど騙されたことかと気の毒に思った。
彼への不満はどういうわけか、すべてその相方の五郎なる男に向かってしまったようだが、そんな些細なことからも人間関係は崩れると知っている神様からしたら、このミルの罪は相当なものだ。

だったら、だったら、せめて、地獄に送ってください。そこで五郎様と一緒に地獄の窯の中だって入るよ。怖くなんてないもの。でも、この中途半端でつまらない雲の上にいるのは我慢ならない。

天界の雲の上を、つまらない、とは。
まことに幸薄い子どもだ。
神様は暫く考えていたが、このような異端者を天界に置いておくことはできないと判断した。そこで、苦渋の決断をしたのだった。
お前に、二度目の機会を与える。

本当に?

この目だ……この穢れのない目に、すっかり騙されたわい。
二度目の機会は、つまり、最後の機会だ。三度目はないと思え。

大丈夫だよ。死神がアホじゃなきゃ、今度は上手くいくはずだよ。

神様は首を振った。
今回の試練は、一度目とは比較にならない。お前にそれを受け入れる覚悟があるのなら、特別に許可しよう。

ん? なんか、メンドーなの